音楽を原点とするグラフィックデザイン『日本のグラフィックデザイン2016』トークイベントレポート
好評の中で終了した『日本のグラフィックデザイン2016』展。全国に3,000名以上の会員を擁する日本グラフィックデザイナー協会の年鑑『Graphic Design in Japan』の発行を記念して開催され、今年で9回目を迎えるというデザイン展である。毎年、会期中に2度のトークイベントが行われている。
今回「グラフィックデザインのゆくえ」と題されたトークイベントに参加してきた。現役デザイナーによる仕事の解説を生で聞ける機会とあって、ギャラリー隣の会場は、80人を超える満席となった。
登壇されたのはデザインの最先端を走る、牧鉄馬氏、木村豊氏、中村至男氏。90年代のある時期、ソニー・ミュージックのデザイン部で同僚だったという。当時のグラフィックデザインの現場は、まだMacなどのデジタル制作が入る以前のものだったそうだ。
トークは自己紹介から現在に至る流れとして展開され、次々に作品が紹介される、濃厚な時間となった。
木村氏——偶然の瞬間がグラフィックの力になる
スピッツ、東京事変、椎名林檎とミュージック系のデザインを現在も手がける木村氏。最近の仕事として紹介したのは、グループ「アカシック」の1stアルバム、凛々フルーツのジャケット。フルーツをモチーフにしたデザインの中心にあって、目を引くのはガラスが割れて中身が飛び出ているジューサーのグラフィック。撮影を重ねる中で、しぶきをあげさせる作業の中、偶然割れてしまった。その瞬間を撮影できていたことが、グラフィックの力となったのだという。
牧氏——研いできた包丁を見せつけるように
キューピーやホンダのCMでは独特の方法で世界観を伝え、最近では尺の長い動画作品を手がけることが増えているという牧氏。以前のCMは15秒の尺が決まっていたが、今ではWebで、どのようにも演出が可能となった。誰でも動画を作り、配信できる状況から、新しい物が生まれるのだという。作品を表すことは、研ぎ澄ましてきた包丁を見せつけること。演出なのか真実なのかわからないけど、あるのかもしれない、と思わせることを目指しているという。
中村氏——制限からの開放が生み出したデザイン
デザイン部から異動になってからの方が伸び伸びと作りたいものを手がけられるようになったという中村氏。新人時代に立て看板を持たされたエピソードや、木村氏、牧氏の作品に嫉妬を覚えていたという告白も。最初は自由なデザインができない息苦しさを感じていたが、異動後のイベントやマネジメントの仕事などで業種の枠を超えた幅広い経験を経ることで、企画から携わることになる「明和電機」や、プレイステーションのゲーム「I.Q」のプロジェクトに繋がる力を得てきたそうだ。
——変化する音楽の形とグラフィックデザイン
登壇された3名に共通すること、それは自分のスタイルを打ち出す、プレゼン力の強さだ。その原点にあるのは、音楽という形のないものを表現し、突き詰めてきたこと。これがクライアントに求められる強さ、その秘訣なのかもしれない。
音楽流通の姿はレコードからCD、配信やライブと姿を変え、そのグラフィックデザインもジャケットからアイコン、プロモーションビデオに姿を変えてきた。配信に対してモノとして存在させる以上、その必要性を高める狙いも、デザインの範疇に含まれている。
今後も形を変え続けながらあり続けるだろう、音楽にまつわるグラフィック。その未来の姿はどのようなものだろう? 思いを巡らす時間となった。