デザイナーがプロデュースするタイポグラフィ専門の古書店&ギャラリー「serif s」立ち上げの裏話を聞く セイタロウデザイン山崎晴太郎氏(前編)

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“本とギャラリーでつくる、タイポグラフィのある風景”をコンセプトとして2016年3月石川県金沢市にオープンしたタイポグラフィ専門の古書店&ギャラリー「serif s」(セリフエス)。運営するのは、多様なチャネルのデザイン事業を手掛ける株式会社セイタロウデザインだ。
金沢の名物古書店「南陽堂」跡地に建てられたserif sは、新たに人々に文字の魅力を提供する。セイタロウデザイン代表の山崎晴太郎氏に、立ち上げまでとこれからの話をうかがったインタビューを2回に分けてお伝えする。前編となる今回は、文字を身近に感じてほしいという山崎氏の店舗に込めた思いを聞いた。
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PROFILE
山崎晴太郎(やまざき せいたろう)/株式会社セイタロウデザイン代表、アートディレクター、デザイナー
82年生まれ。神奈川県横浜市出身。立教大学社会学部現代文化学科卒業。京都造形大学大学院建築デザイン専攻修了。PR エージェンシーを経て、2008年に株式会社セイタロウデザインを設立。企業のデザインブランディングやプロモーション設計を中心に、グラフィック、 Web・建築・プロダクトと多様なチャネルのアートディレクションおよびデザインワークを手がける

金沢へのserif s出店のきっかけ

――タイポグラフィにフォーカスして古書店を立ち上げた理由をお聞かせ下さい。

タイポグラフィがもともと好きだったというのが一番大きな理由です。自身のデザインの中でとても大事にしている要素でもあって、その背景や歴史性をどう活かすか、といった事がデザインの一つのフックになっています。
serif sの運営は趣味に近いところがあって、やりたいことをやる店っていう、本当にそれだけです。タイポグラフィを好きになる人が増えたらいいなっていう、シンプルな動機です。

――金沢に出店されたきっかけを教えて下さい。

セイタロウデザインは今年で設立から8年目なんですが、そろそろどこかで別の動きを始めたいなと思ってたんですね。それで、支社を海外に立ち上げるか、それとも国内で立ち上げるかを考えて、色々調べて最終的に残った候補がオランダのアムステルダムと金沢だったんです。僕は木造建築もやるんですが、金沢は町家文化や木造の文化が発展していて、街の中にそのような建築物が密集している町なので、そこに惹かれて、最終的に金沢を選びました。金沢へは北陸新幹線の開通で、ちょうどアクセスが良くなったということもあります。

書店として、文字を楽しむという目線を。

――店名の由来を教えてください。

セリフ体の”serif”に、セイタロウデザインの”s”です。セリフ体が好きなんです。デザインで時代をどうやって紡いでいくか、といった大きなテーマが自分の中にあって、セリフ体には、それに通じるような歴史性を感じるところが好きなんだと思うんですね。最近はサンセリフ体全盛のような風潮もあるので、そのカウンターカルチャー的な意味合いも含んでいます。

「セリフ体の
「セリフ体の”serif”に、セイタロウデザインの”s”です。セリフ体が好きなんです」

――お店で取り扱っている書籍の話をお伺いします。新しいものから数十年前のものまで現在は100冊ほどの品ぞろえがあるそうですが、仕入れはどなたが担当されているんでしょうか。

仕入れはセイタロウデザインのプロデューサーとデザイナーが行っています。阿蘇山のイメージから「アソゴシック」というフォントを作った社員もいたり、社内に文字好きが多いんです。「こういう本はどうだ?」とか「こういうのもありだね」とか「面白い本を見つけた!」といった感じで、話し合いながら選書しています。もともと事務所に置いてあった本もありますし、出店のタイミングで新しく仕入れた本もありますね。基本的に洋書ですが、日本語の書籍もいくつか並べています。書籍はこれからも増やしていきます。

デザイナーによる選書というのも他の古書店にはない魅力だ
デザイナーによる選書というのも他の古書店にはない魅力だ

――貴重なものも多そうですね。

そういう本も多いですね。正直、売れなきゃいいのにと思うものもあります(笑)。

普段であれば買えない貴重な本も
普段であれば買えない貴重な本も”仕入れ”と思って、思い切って購入しているという

――書籍を選ぶ際は何か選ぶポイントがあるのでしょうか?

割と自由ですが、一般の人が所有欲を持てる本かどうか、といった視点は大切にしています。それは作品としてであろうが、フォントにフォーカスしていようが、どんな形でもいいんですが、一般の人に「フォントや文字って楽しいものなんだ」ともっと気づいて欲しいというのが原点にあるんです。

小説でも絵本でも、文字が綺麗な本ってたくさんありますよね。そういったものも含めて、日常の中の「文字」に対して新しい目線を置けるようなセレクトができるといいなと思っています。

ニッチな学術書で、置いてあるだけじゃよく分からなくて、でも中身は素晴らしいっていう本も、もちろん大きな価値がありますが、そういう本だけを扱う気はあまり無くて。ジャケ買いしてもらっていいと思っています。

ジャケ買いしたくなるような本が並ぶ
ジャケ買いしたくなるような本が並ぶ

街に開かれた場所としての古書店

――オープン後の様子はいかがでしょうか?

このあいだ、オープニングパーティを開いたんです。金沢にはスタッフの誰も繋がりが無いので、「もしかしたら誰も来ないかもな」って思っていたんですが、結構たくさんの方が来てくれて。来てくれたのはほとんど地元の方で、編集者、建築家の方が多かったですね。金沢はやっぱりデザイナーや建築家が多くて、みんな仲が良くて繋がっていると聞きました。町も有機的というか、繋がっていますね、本当に。面白い街だなと思っています。

――店舗だけではなく金沢オフィスとしても立ち上げられたんですよね?
東京以外の第2の拠点が欲しかったという事と、街に開かれた空間が欲しいと思っていた事がベースにあるので、古書店としてマネタイズしたい、という考え方では無いんです。セイタロウデザインの仕事や考え方と世の中が繋がる場所になればいいなという思いでやっています。
また、出店を機に活版印刷機を購入して、店舗に置いているので、東京のスタッフは、事務所というよりは作品づくりに金沢に行くような感覚のほうが強いかもしれないですね。金沢の方がものづくりに集中できると思います。東京と比べて、金沢は時間の流れ方が違いますね。

――お店はどういった体制で運営されていますか?

支社長が一名いて、あとは現地でアルバイトのスタッフを雇っています。店舗はシェアオフィスの機能も兼ねているので、オフィスを貸している方にも手伝ってもらったりしています。支社長は東京と金沢を行ったり来たりで、休日には東京のスタッフが飛んで行って店に立ったり、ワークショップをやったりもします。普通のお店の運営とは少し違う体制かもしれないですね。あとは、これからタイポグラフィや活版印刷を好きになってくれた人たちと広がっていく場にしたいと思っています。「こんにちは」「あ、いらっしゃい」みたいに、自然と入って来られるような空間がいいなと僕は思っています。

――活版印刷機はどういった使い方を考えていらっしゃるんでしょうか?

「活版印刷機を使って名刺を受注します!」といった使い方じゃなくて、むしろオモチャのような気分でみんなが印刷機を使って楽しめればいいなと思っています。本を買ったら、自分でブックカバーを作って活版で名前を押して帰るとか、しおりだけ自分で印刷して帰っていくとか、活版で印字した手紙やレターなんかをプレゼントで同封するとか。そういう使い方ができれば面白いですよね。

開店に合わせて購入した活版印刷機。ワークショップでの活用や、オリジナルのブックカバーやしおりなども作れるようなしかけを考えている
開店に合わせて購入した活版印刷機。ワークショップでの活用や、オリジナルのブックカバーやしおりなども作れるようなしかけを考えている

――お客さんはどういった方が来られますか?

店舗の向かいは柳宗理さんの美術館で、すぐ隣にはHATCHi(ハッチ)という様々なシェアスペースをもつユニークなコンセプトの新しいホテルがあって。そういうエリアですから、観光の方も多く来られますね。駅前のメインの通りにガラス3枚の引き戸の建物があるので、目立つと思います。観光で金沢にやって来たような方が、「ああ、なんか本屋があるね」みたいな感じで自然に入ってくるような、誰でも入りやすいようなお店です。

serif sで扱うのは、どれもデザイナーでなくても文字に対する見方が変わり、文字をもっと魅力的に感じられるような書籍だ。歴史と伝統を大事にする金沢だからこそ、より身近に文字の持つ歴史性や思いを感じることができるのではないだろうか。次回の後編では、店舗が形になるまでのエピソードや南陽堂とserif sとの繋がりと、これからのserif sの展開についてお届けする。
後編へ続く⇒
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INFORMATION
serif s(セリフエス)
住所 : 〒920-0902 石川県金沢市尾張町1-8-7
電話番号 : 076-208-3067
営業時間 : 平日11:00~19:00/土日12:00 ~ 18:00
定休日: 水曜日
Webサイト : http://serif-s.com/