特別公開版 クリエイターのための権利の本連載

第1回:今、権利について知っておくべき理由(その1)

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こんにちは。9月に刊行された「著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本」という書籍の編集を担当した岡本です。

この連載は、おかげさまで発売後2週間で増刷が決定するなど、ご好評をいただいております「クリエイターのための権利の本」の一部を紹介するものです。第1章「クリエイターが権利について知っておくべき理由」をノーカットでお届けします。どのような書籍かは、このページの下の方に載せておりますので、ぜひご参照ください。

それでは、さっそく本題へと参りましょう。

●第1章「クリエイターが権利について知っておくべき理由」の概要

近年、著作権に対する意識が急速に高まってきています。この章では、現代のクリエイターが著作権の知識を身につける理由について、実際に起こったトラブルを例に解説をしていきます。

クリエイターは権利のことについて無頓着な人が多いようです。しかしクリエイターは、他人の権利を侵害する可能性も、逆に他人から権利を侵害される可能性も、非常に高い職種です。これからのクリエイターは、自分の身を守るためにも権利について知っておくべきです。

●インターネットが変えた著作権トラブルの形

近年、様々なメディアで著作権に関するトラブルや問題が取り沙汰されています。TVのニュースなどで取り上げられ大きな話題になったものだけでも、東京オリンピック・パラリンピックエンブレム問題、MERYやWELQなどに端を発したキュレーションサイト問題、芸人のフリー音源無断利用問題など多数の事例をあげることができます。

問題となった東京オリンピック・パラリンピックエンブレムの例
過去の判例や報道された事実関係を前提とすると、このロゴが著作権侵害と判断される可能性は低いといえるでしょう。
左:佐野研二郎氏がデザインした2020 年東京オリンピック・ロゴ(出典:商標登録第6008748号)
右:ドビ氏「リエージュ劇場」のロゴ(出典:リエージュ劇場公式サイト

これら、最近の著作権トラブルには一つの傾向が見られます。それは「インターネットが大きく関与している」点です。

2015 年に起きた東京オリンピック・パラリンピックエンブレム問題は、著名なグラフィックデザイナーの佐野研二郎氏がデザインしたエンブレムについて、ベルギーのリエージュ劇場のロゴをデザインしたデザイナーであるオリビエ・ドビ氏が自分の制作したロゴと類似しているとして国際オリンピック委員会に対し使用の差止めを求めた事件です。しかし、ロゴやエンブレムの類似性の問題というよりも、ここから派生してエンブレム使用イメージとして佐野氏が使用した写真が他のウェブサイトからの無断転用であったと報道で指摘されたことや、佐野氏の事務所でデザインしたサントリーのトートバッグデザインの一部にも画像の無断使用の疑いが浮上し、インターネット上で批判が拡散された結果、最終的にエンブレムの取り下げを余儀なくされました。

無断転用であったとする報道の例
左:佐野氏制作のエンブレム使用イメージ(出典:朝日新聞デジタル 2015年9月1日「五輪エンブレムの使用例、無断転用か他サイトに類似」
右:ブログに掲載されていた写真(出典:同左)

また、もう少し前の事例では、2005年に漫画家の末次由紀氏が自身の漫画で描いていたバスケットボールのシーンが井上雄彦氏の漫画「スラムダンク」のトレースではないか、という検証サイトが立ち上がり、描写の盗用について末次氏も認めて出版社が漫画の連載中止、単行本の出荷停止、絶版、回収したという事案もありました。

検証サイトによる比較の例
検証サイトによる比較(出典:「漫画家・末次由紀氏 盗用(盗作)検証」ウェブサイト)

現在では、仕事においても私生活においても、インターネットは欠かせない存在です。クリエイターにとってもインターネットの世界は、作品を公表したり情報を発信したりして、自分の価値を高める重要な場となっています。しかし一方で、インターネットは誰かが他人の著作権を侵害していないかを全世界のユーザーがチェックする監視ツールとしても機能しています。

著作権侵害や他のクリエイターの作品を軽視する態度はクリエイターとしての信用を大きく傷付けてしまうリスクがあります。このような事態を避けるため、著作権に関する最低限の知識を身に付けておく必要性が高まっています。

MEMO

佐野研二郎氏は元SMAPのメンバーからなる「新しい地図」のアートディレクションを担当し、2018年に朝日広告賞を受賞するなど活躍していますし、末次由紀氏は「ちはやふる」の大ヒットで華々しい復活を遂げています。

いかがでしたでしょうか。TwitterやFacebookでこうした話題を見ない日はない、と言っても大げさではないかもしれませんね。自身が作るものについて気をつけるのはもちろんですが、根拠のない批判や反論に屈さないためにも、正しい著作権の知識と、トラブル解決方法を知っておくことは重要です。

それでは、次回の連載更新をお楽しみに。

書籍概要

プロ・アマを問わずクリエイターやコンテンツ制作に従事する方が知っておかなければならない権利や法律について、具体的に「やっていいこととやってはいけないこと」「トラブルになってしまった時の対処方法」を紹介します。これまでの著作権関連の書籍のように、法律の解釈よりも、実務ベースで、よくあるケースごとにOKなのかNGなのかを「それぞれの部門のプロフェッショナル」が答える内容です。

クリエイターのための権利の本の表紙

著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本

定価:本体2,400円+税
判型:A5判/224ページ/2色
ISBN:978-4-86246-414-9
発売日:2018年9月27日
発売元:ボーンデジタル
著者:大串肇、北村崇、染谷昌利、木村剛大、古賀海人、齋木弘樹、角田綾佳

出版社サイト
https://www.borndigital.co.jp/book/6761.html

●著者プロフィール

大串肇
株式会社mgn 代表取締役

Webサイト制作ディレクション業において、一般企業や開発会社と一緒にプロジェクトを円滑に効率的に進めるのが主な仕事。IT系の勉強会で行われる5分程度のライトニングトークにおいて、毎回聴衆を盛り上げることを得意とし、界隈ではLT職人と呼ばれている。 趣味はゲームをすること(上手くない)と、愛妻&愛犬とお散歩に行くこと。 Gitの勉強会を定期的に行なっている。 2013年のWordCampTokyo 実行委員長。
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