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デジタル印刷とSNSの融合で生まれる新たな価値 ~デジタル印刷が実現するSNS時代のフォトブック~

富士ゼロックスは現在、「コンシューマー参加型の新しいコミュニケーションプラットフォーム」を創り出そうとしている。この概念を具現化しているのが、富山県高岡市からWebサービスを展開するハピログ(以下、「ハピログ社」)だ。ハピログ社は、Facebookに投稿したタイムラインから本を作る「ハピログ」というサービスを開発・販売・サポートする企業。一方、富士ゼロックスはSNSとデジタル印刷を融合させた新たなコミュニケーションのあり方を提案している。ハピログ社の代表取締役・中林秀仁氏は、印刷業界の外にいるからこそ、“今の時代に必要なデザイン”が分かるという。富士ゼロックスが考える「コミュニケーションプラットフォーム」と、中林氏が思うSNS時代のデザインとは何か。ハピログ社のサービスを通じて、その一端を紹介していこう。

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※この記事は『カラー図解 DTP&印刷スーパーしくみ事典 2017』からの転載です。

SNSのタイムラインから1冊の本に

「ハピログ社の前身となるフォトブック事業を立ち上げたのは、スマートフォンが普及し、Twitterなどのソーシャルメディアも身近になってきた2013年です。当時僕は企業コンサルや研修などを行う企業を経営していましたが、いつかは自らサービスを生み出すところに行きたいと考えていました。そんなとき、社内で“FacebookやTwitterのタイムラインは追っかけるだけで(情報が)すぐに流れてしまう。良い写真やコメントがたくさんあるのにもったいないよね”と話していて、じゃあそれを何かの形にしてみようかと。そんなところから、ハピログのアイデアが生まれたのです」(中林氏)

ハピログ株式会社
代表取締役
中林秀仁氏

このアイデアを実現するにあたっては、アプリケーション開発はもちろん、印刷の問題もあった。しかしデジタル印刷が品質の高い印刷として認識されるにつれ、心配もなくなっていったそうだ。現在ハピログ社はアプリケーション開発とサービスを行っている。

ハピログの利用イメージ
ハピログではフォトブックにしたいタイムラインの期間やアルバムを選ぶだけで本が作成できる。
レイアウトは全自動なので、ユーザーは本作りのために時間を掛ける必要はない

SNSユーザーの編集タイムはいつ?

写真のアウトプット(プリント)には、自宅、DPEショップ、フォトブック、とさまざまな方法がある。ハピログは見た目はフォトブックだが、その作り方が従来と全く違うことが特徴であり、ユーザーにウケている要因になっている。

「発注していただくお客様の約9割は女性、そのうち8割はママ層です。アンケート調査を行ってみると、ハピログは写真日記として楽しまれていることが分かってきました。写真日記って、出来上がったものにはとても充足感がありますが、それを作るためにはかなりの時間と労力が掛かります。フォトブックも注文段階でページ数を決めて写真を決めて、コメントを用意して、アップロードして……と手間が掛かるのは変わらないし、大仰な感じがするようです。ハピログの場合、タイムライン投稿の期間やアルバムを指定するだけで自動レイアウトされて本になるので、作業時間が必要ない。と同時に、愛着のある紙、本という体裁で残る、しかもデジタル印刷でも品質が良い、ということが喜ばれています」(中林氏)

ハピログの作例
いつか巣立っていく子どものために、と綴った毎日の記録を半年ほどの間隔で一冊にまとめたもの。
ハピログユーザーは、こうした子育て中のママが大部分を占めている

SNSユーザーにとっては、写真を少し補正して文章を入力して……と手を掛けてSNSに投稿するタイミングこそが編集の時間。そうして出来上がった本を見て価値を見い出してもらえれば、もっとSNSを活用しよう、行動しよう、と文化が生まれる。中林氏は、「ハピログはリアルタイムな情報を紙に定着させるので、リアルな気持ちとコミュニケーションを残せる」と言う。そして2016年、富士ゼロックスとのコラボレーションにより、新たな展開が生まれた。

『富士山新聞』と『熊本地震 震災日誌』

ひとつは、富士山五合目にある雲上閣で2016年8月1から9月10日まで行った「富士山新聞」である。これは、SNSコンテンツと地域にある情報、位置情報をマッシュアップしたら“現代の御朱印”のような面白い印刷物が作れるのではないかという試み。富士山登頂をSNSにアップし、下山後に雲上閣に導入された富士ゼロックスのデジタル印刷機でプリントすると、登頂時の写真やコメントなどと一緒に地元企業のクーポンなどが新聞の体裁で印刷されるというものだ。

新聞レイアウトには山梨日日新聞の号外レイアウトを用い、地域情報などは富士急行、印刷サービスはアピックスと複数の企業が参画。記念品としての価値も高く注目を集めた。

『富士山新聞』
山梨日日新聞のレイアウトをベースに、富士山に登った記録をそのまま残してしまおうという企画。
SNSにアップした後に付いたコメントなどと一緒に印刷され、きちんと持ち帰られるように専用ケースもプレゼント

そしてもうひとつが、認知症の人を支える生活支援を熊本県上益城郡で行う「グループホームせせらぎ」の高橋恵子さんが作った『熊本地震 震災日誌』だ。震災から数日経った後から、高橋さんが個人用Facebookページに綴った数週間の記録が1冊にまとめられている。

「高橋さんとの出会いは、10冊という発注数がきっかけでした。10冊という数は、当社にとって大口のお客様になります。どんな方なんだろう、と電話してみると、今まさに避難所にいらっしゃると。それですぐお会いして、作りましょう。ということになったのです。高橋さんによれば、震災後、電気が付かない、紙とペンでは記録できないという中、スマートフォンだけが情報収集のツールであり、発信のツールであったそうです。コンテンツの中には、不満や愚痴のような、見返したくないものもあります。でも高橋さんは、入所されている方のご家族に、同業社に、仲間に、余すところなく知って欲しい、そして何かの時には活かして欲しいと、本にするときも一切の再編集をされませんでした」(中林氏)

『熊本地震 震災日誌』
中林氏と杉田氏が“残さなければならない記録は楽しいことばかりではない”ということを知った1冊。震災当時の生々しい記録、避難中に気付いたことや弱音、さまざまな人々からの励ましの言葉などが余すことなく綴られている

この『熊本地震 震災日誌』は、2016年10月に行われた関係者が集まる全国大会で配られた。その数は1,000部。そこで中林氏は、富士ゼロックスのプロダクションサービス営業本部営業計画部マーケティング部部長、杉田晴紀氏に印刷協力を仰いだ。

「私たちはデジタルコンテンツを“記録”、紙に刷ることは“記憶”に残すことだと考えています。人の感情に定着させることが“記憶”なんじゃないかと。でもその記憶の内容は楽しいことだと思っていたんですね。ところが、高橋さんのお話はそうではない。辛いことも苦しいことも記憶なんだ、これを紙にしてみんなに配りたいんだとおっしゃっていました。高橋さんにお会いして、生々しい情報を伝え残したいんだという思いに共感し、すぐ協力させて欲しいと申し出ました」(杉田氏)

富士ゼロックス株式会社
プロダクションサービス営業本部
営業計画部マーケティング部
部長
杉田晴紀氏

富士ゼロックスが目指す新たなコミュニケーションプラットフォーム

デジタル印刷とSNSを融合させたワークフロー
SNSには個人間のやり取りだけではなく、たとえば地域の観光情報やイベント、自治体や企業などの情報など、多くの情報が集まる。すでにさまざまなコミュニケーションの手段として利用されており、この「場(SNS)」を誰もが手にとって読める「本(印刷媒体)」にすることで、関係者とのコミュニケーションが深まる。その印刷には、情報提供のタイミングを逃さないデジタル印刷が最適

「ユーザーが生み出すデータ量の爆発は、今後も続いていくでしょう。同時に、紙への愛着、親しみも普遍的なものとして残っていくと思います。我々は、デジタルか紙ではなく、この2つを少し高い次元で融合させるサービスをこれからも続けていきたいですね。ハピログでは、これを体現する古くて新しい価値を提案できたかな、と思っています」(中林氏)

「人を感動させる、気持ちを動かすことにかけては、本来デザイナーが得意とするところ。そろそろソーシャルデザイニングに目を向ける時期かもしれませんね。普遍的なものと新しいもの、体験すること、シェアすること、こうしたキーワードがハマるデザイン、クリエイターが必要です」(杉田氏)

「確かにそうですね。富士山新聞も、体験のシェア、記憶のためのツールでした。見た目のデザインからちょっと飛び出して、体験のほうにも目を向けると面白いアイデアが生まれてきます。もしそんなデザイナーがいたら、すぐにでも何か一緒にやってみたいですね」(中林氏)

「SNSとデジタル印刷の仕組みを融合させて、コンシューマー参加型の新たなコミュニケーションプラットフォームを創っていきたいですね。地域社会でのさまざまなコミュニティ活動や、企業のCRM活動等、活用の場をどんどん増やしていきたい。そこで重要なプレイヤーは、地域のデザイン制作会社や印刷会社となります」(杉田氏)

全国に販売網を持ち、地域に密着した企業や団体と連携を深めている富士ゼロックス。ソーシャルや紙、印刷というキーワードでハピログ社と繋がり、新しい価値を創出しはじめている。更なる広がりが期待できるこの取り組みから目が離せない。


提供
富士ゼロックス株式会社
http://www.fujixerox.co.jp/