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第2回 フィル・ヘイル 〜リック・ベリー、マーベル、スティーヴン・キング〜

リアルとアンリアルが共存する、独特の世界観の絵を描くアーティストとして知られる、アメリカ生まれ、ロンドン在住のアーティスト、フィル・ヘイル(Phil Hale)

◎フィル・ヘイルへのインタビュー:2012年 5月
◎インタビュアー:アマンダ・アーランソン(Amanda Erlanson)

第1回 幼少期からフラゼッタとの出会い
▼第2回 リック・ベリー、マーベル、スティーヴン・キング
第3回 フォトコラージュ、ブレアの肖像画、サージェントの影響
第4回 肖像画家からの脱却、抽象化、繰り返される題材(最終回)


アマンダ: 80年代の初期、まだ16歳のあなたはイラスト界の巨匠、リック・ベリー(Rick Berry)に弟子入りしました。現代では珍しいことではないですか? まだ方向性が定まっていないあなたにとって、ベリーの影響はさぞかし大きかったでしょうね。どうやって実現したのですか? ベリーはあなたに何を見たのでしょう?

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フィル: そう、彼の影響はとても大きくて、押しつぶされそうだった。ベリーの2番煎じになってしまうんじゃないかってね。だから、そこから逃れるために、アメリカを出ることにしたんだ。当時は自分が何を考えていたのかもわからなかった。僕の作品には、僕の内面からの衝動と、ベリーの教えがせめぎあっているものがある。今でも、だ。彼はとても親切で、コラボレーションや教育といったものを高く評価していた。彼は僕の可能性を見ていてくれたんだと思う。そして、実際的な指導や支援をしてくれた。はじめはそんなに長い期間のつもりではなかったんだ。お互いに心地よく、いい関係を続けている間にそうなっただけのこと。

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アマンダ: 18歳のとき、ベリーとの師弟関係が終わり、あなた方2人に加えて、2人のアーティストとスタジオを共有することになりましたね。その中であなたはいろいろなことを吸収していった。3年間ベリーと一緒に創作し、大きすぎる影響から脱け出すために離れる決意をしたんですね。きっかけは? 彼の影に隠れたままでは、これ以上成長を遂げられないと思うようなことがあったのですか?

フィル: 特別なことがあったわけじゃない。あれくらいの年頃は(それに僕はいろんな意味で世間知らずだったから)、何をどんな理由で決めるかなんて、自分でもわからないだろう? ともかく僕は大人になって、昔のままの関係を続けるのは難くなったということ。そのまま彼と一緒に成長することだって、不可能ではなかったと思う。イギリスに引っ越した後は、僕の作品はテーマにしてもアプローチにしても、彼に会う前に少しばかり戻ったんだ。写真から出発したり、絵と写真を融合させる方法を見つけようと試行錯誤している。リックはそんな方法はとらない。僕は、自分の中でイメージを作るのが苦手なんだ。一部を現実世界から取り入れて、そこから作品を形作っていく。どうやったらうまくいくか、それが分かるまで、長い、とてつもなく長い時間がかかった。

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アマンダ: 1985年、まだ22歳の若さで、Marvelの「ギャラクタス(Galactus)」シリーズ(最後は“Epic”に掲載)で、「Johnny Badhair」のストーリーとイラストを描きましたね。あなたの「Johnny Badhair」は鮮烈で、その後数十年、あなたのキャリアについて回ることになりました。それに、時々彼を描くことでも知られています。直接性、描き込まれたアナトミー、破壊など、あのキャラクターに必要なことを学び取ることに夢中になったということですが、どういういきさつで依頼がきたのですか? あのキャラクターを描くにあたって、どの程度の自由が与えられていますか? 自分のイラストのルーツから抜け出そうとするあなたが、なぜ、幾度も彼に魅かれるのでしょうか。

フィル: 「Johnny Badhair」は、フラゼッタへのラブレターなんだ。少なくとも最初のうちは。そして、シリーズが進むうちに多くを学んだし、予想していなかった方向に進むことにもなった。自分が面白いと思うことに集中できたんだ。毎回苦心して新しいものを作り上げる必要に迫られることもなく、吹っ切れたような気持にになった。まだ試していないアイデア、しかも特定のアイデアを練るための、まともな理由を手に入れたんだ。仕事を重荷として背負うのではなく、自分が面白いと思うことを追求できるんだって、だんだん分かってきた。一種の逃げ場のようなものだよ。面白くないことから逃れるためのね。

中心のテーマは「失望と反抗」。それに、報われないと分かっている努力に取り組む姿だ。ファインアートとして描くのに完璧な題材だよ。でも、職人のようにイメージを作り上げるのとはまた違う。そうなると、退屈だし、先が読めてしまう(そうして描いていたこともあったけど)。

アマンダ: 1987年、スティーブン・キングの「The Dark Tower II: The Drawing Of The Three」(ダーク・タワー〈2〉運命の三人)のために、オリジナルのイラストを10点描きましたね。その後5年間働く必要がないほどの額をもらったとか。その仕事を得たいきさつ、鮮烈な絵を描くにあたって、どこからインスピレーションを得たか、教えてください。それから、スティーブン・キングはあなたのキャリアにどう影響しましたか?

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フィル: キングの仕事をもらえたのは、運が良かった。その数年前に、キングの本のあるイラストに推薦されていたん。他のアーティストが辞めてしまってね。そして、キングが僕の作品を気に入ってくれたんだ。その次は、僕に1冊丸ごと任せてくれた。信じられない好条件だったよ。でも、自分の作品には全然納得できていない。色をたくさん使おうとしたんだ。当時は、色を試すことが面白くて…。でも、まとまりがつかなかった。色を調和させる経験もスキルもなかったんだ。不自然で、説得力もない。10年経った1997年に、オリジナルイラストでペーパーバック版を出そうということになった。ぞっとしたよ、だって無償で全部描き直すことになったんだからね。でも契約上ずいぶんたくさんの報酬をもらえることになっていたし、スタジオにこもって好きに描くいい機会だと思ったんだ。楽しかったよ。音楽をたくさん録音したし、バイクをデザインして組み立てたり、写真を撮ったり、思い切りルーズに描いてみたり。そして、そんな日々が終わってみると、僕は就職向きの人間ではなくなっていたんだ。

キングとの関係で一番良かったのは、(キングもこれを良いことだと思ってくれていると嬉しいんだけど)、金銭的なことから一時的に離れて、それまでの内省的なスタイルを捨てられたことだ。当時は分からなかったけれど、今考えると、過ぎた贅沢だ。


本記事は、2012年 5月 23日に行われたインタビューであり、ブログ「Erratic Phenomena」の翻訳です。執筆者およびアーティストの許可を得て掲載しています。

◎インタビュアーについて
アマンダ・アーランソン(Amanda Erlanson)は、ライターであり、収集家であり、アートブログ「Erratic Phenomena」の執筆者です。ロサンゼルス在住。そこでは、エンターテインメント業界とアートの世界を行き来している。最近の著作には、「Heroes & Villains」(共著)「Chris Berens: Mapping Infinity」「Andrew Hem: Dreams Towards Reality」「Mark Ryden: The Gay ‘90s」などがある。