京都活版印刷所を訪ねる(しくみちゃんが行く!)「DTP &印刷スーパーしくみ事典」番外編

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最近静かなブームになっている活版印刷。活版印刷はグーテンベルク以来の伝統的な印刷技法であるが、オフセット印刷に押されて現在では使われる機会がめっきり少なくなった。しかし、厚手のファンシーペーパーや板紙などに活版で刷られた印刷物には独特の暖かみがあり、紙の質感や手作業による印刷仕上がりを楽しむファンが増えている。雑貨店やおみやげ屋さんの店頭で、活版印刷を使ったノートやポストカード、レターセットなどのグッズを目にする機会も増え、とりわけ若い女性の間で人気のようだ。

こうした活版印刷のブームは、単なる一過性のものとも思えない。名刺やポストカード、コースター、タグなどの小型印刷物では活版印刷ならではの展開が可能な分野も存在するはずだ。特に少部数印刷の分野では、印刷・加工の新しい付加価値のサービスとしてビジネス展開することも可能なのではないだろうか。

今回は、活版印刷の魅力を伝えるとともに、その技術を生かしてビジネス展開するCAPPAN STUDIOのサービスの最前線をレポートする。1年前、京都伏見にオープンしたショップ「京都活版印刷所」を訪ねて、お店を運営する登津山次郎氏にお話を伺った。

古くて、新しいお店──京都活版印刷所

京都、伏見稲荷大社の近くにある京都活版印刷所は、活版印刷で作られたお土産用のグッズを展示・販売するほか、以前に使われていた活版印刷機や金属活字などの設備が店頭に飾られている。木造の古い町家を改装して、ショップとして生まれ変わらせたとのことで、筆者のような昭和世代には懐かしい香りがして、うれしい店構えだ。

お店の奥も昔の雰囲気をそのまま残しながら、機能的に動ける作業場に改装されている。店内のインテリアデザインを担当したのは登津山さんの奥様とのことで、優しい店構えになっている。

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伏見稲荷大社の近くにある「京都活版印刷所」。観光の折りに立ち寄ってみてはいかがだろう。
住所:京都市伏見区深草稲荷中之町38-2
【営業時間】 月・水・金・土 15:00-19:00 火・木は予約の方のみ
【活版印刷のご相談など】075-645-8881 もしくは、コンタクトフォームより

店頭には、アート性の高いポストカードや、手軽な価格で購入できるレターセット、一筆箋などのおみやげに最適なグッズが並んでいる。ユニークなのは、用紙を選んでその場でオーダーできるオリジナルノートのシステム。奥にはリング製本の機械が設置されているので、お客さんは製本加工の様子を眺めながることもできる。コミュニケーションが生まれる光景が思い浮かび、微笑ましい。

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アート性の高いポストカードが目を引く。AAC(ALBATRO ART CARD)のカードは、活版印刷を中心に印刷表現の再現性、偶然性、精密性の混在に挑戦したプリントアートだ。
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レターセットや一筆箋など、好みの組み合わせが選べるのが楽しい。

京都伏見区の魅力を伝える「こといろはノート」

注目したい新製品に、2016年7月に発売された「こといろはノート」というノートブックのシリーズがある。京都、伏見区の名所を“いろは”47種の絵柄で表現でしたノートブックのシリーズだ。すべてのデザインを京都に由縁のあるデザイナー、クリエイターが手掛けたということでも話題性がある。

表紙は斬新なデザインで、京都の魅力を若い人たちが今風に再構築して表現している。さらに驚くのは、すべての表紙が活版印刷による多色刷りで美しく仕上げられていることだ。京都・伏見区の魅力を伝える格好のグッズになっており、街おこしプロジェクトとしても秀逸で、各界から大きな反響を呼んでいるそうだ。

47種の表紙デザインの中で人気なのは? と尋ねたところ、伏見稲荷の千本鳥居を形取った「い」のノートや、お稲荷さんの狐を表した「あ」のノートの人気が高いとのこと。「い」のノートには「いったい どこまで続くやら 千本鳥居」の文字が印刷されていて、千本鳥居が幾何学的な模様でデザインされている。私も千本鳥居の中を歩いてみたが、鮮やかな朱色の鳥居がどこまでも続き、まるで異次元のタイムトンネルの中を歩いているような不思議な感覚だった。鳥居を見学した直後であれば、こうした絵柄に引かれるのもうなずける。

●「こといろはノート」の詳細はこちら

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47種類の「こといろはノート」の中から人気の商品を平置きで展示していた。「い」は千本鳥居、「あ」は狐と伏見稲荷大社、「め」はお稲荷さんと金銀の恵みをそれぞれモチーフにしている。
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店の奥には47種類の「こといろはノート」を一堂に集めて展示。壮観だ。
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筆者が撮影した千本鳥居のショット。外国人が訪れたい名所としても名高く、大勢の観光客で賑わっていた。

活版印刷工場を店内に再現

ショップには、活版印刷機や金属活字の棚が展示されており、活版印刷を知らない世代には大いに参考になるだろう。店頭に置かれていたのは「手キン」と呼ばれる手動の印刷機。別棟の工場では、自動機の「プラテン」や、さらに大型の印刷機がフル稼働しているという。

金属活字は現在ではほとんど使う機会がないが、今でも数社が鋳造を行っているので、入手は可能とのこと。お店には展示されていないが、金属活字の母型も見せてもらった。金属活字は、書体やサイズごとにストックが必要になる。こうした活字のストックのためのスペースの確保だけでも大変だったろうと思う。

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「手キン」の印刷機。レバーを手動で押し下げて版と紙を圧着させて印刷する。
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お店にディスプレイされた金属活字。当時のままのケースに収納されている。
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工場に保管されている母型を見せてもらった。ストック用のケースが並び壮観だ。

活版印刷をオーダーしてみよう

クリエイターにとって気になるのは、現在ではどのような手順で活版印刷のオーダーができるのか、ということだろう。CAPPAN STUDIOが運営するサイトでは、Illustratorを使ったデータの作成方法から、入稿、印刷版の作成、印刷までのプロセスを紹介しており、ネットを経由してのオーダーも可能になっている。

名刺の印刷であれば、黒林堂のサイトでオーダーが可能だ。凸版の印刷版だけを作成してもらうサービスも展開している。手元に印刷機があれば自分で刷ることもできるし、ホビー用途の活版印刷キット「レタープレスコンボキット(Letterpress combo kit)」の販売も行っているので、個人ユーザーが活版印刷を手がけることも可能だ。企業の新規取引を希望する場合や、デザイナー、クリエイターからの問合せについては、Cappan Studioのサイトにそれぞれ専用のフォームがあるので、直接問い合わせてほしい。

●活版名刺専門店・黒林堂の詳細はこちら
●凸版製版出力サービスの詳細はこちら
●レタープレスコンボキット(Letterpress combo kit)の詳細はこちら
●企業の新規取引、デザイナー、クリエイターからの問合せについては、こちら

印刷版は、ソフトな材質の樹脂板(上図)と、金属製の亜鉛版(下図)の2種類があり、希望の材質をオーダーできる。
印刷版は、ソフトな材質の樹脂板(上図)と、金属製の亜鉛版(下図)の2種類があり、希望の材質をオーダーできる。
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レタープレスコンボキット(Letterpress combo kit)。ヴィンテージ感のある招待状、おしゃれな名刺、かわいいグリーティングカードなどのペーパーグッズの数々を、自分の手で作ることができる。
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2色刷りが鮮やかな名刺。活版印刷特有の凹凸が特徴で、触っても楽しい。
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コースターは逆に凹凸は抑え気味にする。凹凸が激しいと、グラスが傾いてしまう。

クリエイターを支援する見本帳「活版印刷の基本表現」

クリエイターにとって嬉しいニュースがある。活版印刷の印刷再現を確認できる見本帳「活版印刷の基本表現」がこの度完成した。大和板紙の用紙30銘柄を使用し、デザイナーが活版印刷で制作物をデザインするときに参考になる。

用紙に板紙を選んだのは、利用頻度の高いパッケージ分野の需要に応えるためだという。名刺やポストカードで利用可能なファンシーペーパーの見本帳や印刷見本も整備中で、今後の展開に注目してほしい。

●見本帳「活版印刷の基本表現」は「活版印刷研究所」のサイトで見ることができる。詳細は、こちら

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見本帳「活版印刷の基本表現」の外観。サイズ:(W)100X(H)200X(D)20mm、表紙+本文30P、価格:¥4,000円+(税)。
大和板紙の用紙30 銘柄を使用している。
大和板紙の用紙30 銘柄を使用している。
見本帖の活版印刷は、スミ(黒)および白(オペークホワイト)を使用。文字のポイントごとの再現、線の再現、白 抜き時の再現を確認できる。
見本帖の活版印刷は、スミ(黒)および白(オペークホワイト)を使用。文字のポイントごとの再現、線の再現、白抜き時の再現を確認できる。
濃い紙色に白インキで印刷するとどうなるのか?という疑問などを解消する。
濃い紙色に白インキで印刷するとどうなるのか?という疑問などを解消する。

現在の活版印刷の需要は、印圧を高くして、あえて文字などの画像部を凹ませる活版印刷の技法に注目が集まっているようだ。活版印刷特有の独特な風合いと手触り感、凹凸感を望む人が多いと思うが、こうした印刷再現はオフセット印刷やオンデマンド印刷では不可能だ。また、印刷工程では、印圧などの物理的な要素が大きく作用するため、印刷のムラやかすれが生じることもあるが、そうした現象を好む作家さんもいるとのことで、受注する側の印刷調整がとても重要で、難しいことも実感できた。

人が見て、美しいと感じる基準はさまざまである。一方で製造側は、コンスタントに高品質のものを仕上げていく責務がある。一度は退職された印刷職人の方が現場に復帰して、工場で機械の調整を行ったりアドバイスを授けることで、品質が飛躍的に向上したことをお聞きした。日本の印刷技術が優れていることは改めて言うまでもないが、かつての職人さんの高い技術が若い人たちに受け継がれていく現場を垣間見て、胸が震える思いがした。

「京都活版印刷所」は刺激に満ちたショップだ。活版印刷に興味をお持ちの方であれば、京都にお出かけの折りに立ち寄ってみてはいかがだろうか。

TEXT:生田信一(ファー・インク