発想力と画力を鍛える「OCHABI アートジム」潜入レポート

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全国的に有名な芸大・美大予備校、御茶の水美術学院や、3年制・4年制の御茶の水美術専門学校を有する「OCHABI」が、社会人向けのレッスンを提供していることをご存じでしょうか。その名も「アートジム」
スポーツジムのように『絵を読める・絵で伝える』ことを鍛えるための学校だそう。Webサイトの案内を見た限りでは、カルチャースクール的なゆるいノリではなく、ちゃんと(?)学べそうな感じに見えたので、編集担当が実際に体験してきました。今回はそのレポートをお届けします。もちろん取材許可済みです。

と、その前に、知っている方も多いと思いますが一応説明しますと、芸大や美大には、学科試験に加えて実技試験があります。デッサン、平面構成、立体構成などの基礎美術ができなければ入試は突破できません。この基礎は「センス」や「才能」という言葉で片付けられるような曖昧なものではなく、国数理社英などと同様に、観察や描く訓練の繰り返しによって身につけていく知識と技術です。美大予備校は大学の試験対策のためのものですが、一方で未来のクリエイターにとって最も重要な基礎造形力を身につける場にもなっています。

とはいえ、現場のクリエイター全員が、こういった学校に通ったわけではないでしょう。王道のステップを踏まずに、仕事をしている方も大勢いるはず。いやむしろ独学で仕事をしている人の方が多いかもしれない。そして、仕事をしているからこそ基礎の重要性に気付くというのは、どんな分野に置いても同じ。そう、オトナになると勉強したくなるのです。

基礎を学びたい、でもすでに大人になってしまった!学校に行く時間もない!大人のための学び直しの場を求む!というスタンスで挑んだ体験レポートです。前置きが長くなってしまいましたが、『おとなの基礎英語』(ETV)ならぬ『おとなの基礎美術』と思ってご一読ください。

 

●OCHABI アートジム
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アートジムのプログラムは「ゼロから学べる」「ゼロから考える」という『ゼロワーク』を根底に構築されている。企業向けプログラムと個人向けプログラムがあり、個人向けプログラム平日夜間土日が選べる。無料体験イベントも行っている。入学は中学生以上を対象。
http://www.ochabi-artgym.jp/


まずは個人向けプログラムの無料体験に潜入!

ざっくり無料体験の内容を説明すると、学校やコースの説明がなされた後、今日学ぶ内容の説明があり、鉛筆で線を描く練習をして、目の前のモチーフを描いてみる、という流れになっていました。
描くレベル感としては、ほぼ絵を描いたことがない人美大予備校に初めて通うレベルと言っていいでしょう。

ちなみに補足しておくと、予備校のデザインコースに入ってくる高校生は絵が描けるわけではありません。子どもの頃から自分で描き続けている子もいますが、そういうタイプは多いわけではないです。まったく描けないレベルから約2年で、生徒の画力や表現力を合格レベルにもっていく先生方の指導力は、本当にあっぱれです。

ほぼ経験がないことが前提となって説明されますが、学生向けの授業と違って、ロジックに沿って描き方の説明がなされていく点は、さすが社会人向けと言ったところ。先生の説明を聞きながらステップ・バイ・ステップで描くことで、わかっていたつもりで見落としていた点に気づけたのは実に良かったです。
ちなみに、予備校などの授業では、先生からのアドバイスはありますが、生徒自身が観察して気付いてレベルアップしていく学び方になっているので、スタンダード的なものは教えないことが普通です。もちろんそれは、生徒の個性を伸ばしながら成長させるためであり、安易に答えを与えては観察力も表現力も身につかないからで、こういった自分の力で考えて決めていく学習方法は、高校までの学校教育にはほぼなく、しかし社会に出ると必ず必要になるので、大変優れていて素晴らしい教育方法だと思います。ただ、時間にあまり余裕のない大人にとっては、ゆっくり過ぎるのはなかなか厳しい面もあるわけで、アートジムでは、そのあたりのオトナの事情をちゃんと踏まえた教え方になっているなと感じました。

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左は説明を受けずに、4分程度で描いたもの。右は先生の説明に沿って、15分程度で描いたもの。
見えている手前の部分への意識が8割、隠れて見えない奥への意識が2割程度で描いていた気がする。
自分の中の立体への意識がまだまだ足りていない、手前も奥も同じくらい気にして描かないとダメだなと、
先生の説明を聞きながら思った。

が、実はこの体験で編集担当がグッと来たのは描き方の話ではなく(もちろんそれも良かったですよ!)、ものの見方が広がることや、スケッチが描けるようになることで、自分のアイデアやコミュニケーションが広がるという前座の話の方。いや、それ自体は分かっていると思います、一応。その良例として出てきた「WarkaWater」の話が大変興味深かったのでした。

「WarkaWater」をご存じですか? 知らない方はぜひ検索してみてください。空気中の水蒸気を水滴に変える建物で、デザイナーのヴィットリ氏(Architecture and Vision社)によるものだそうです。
課題を解決する機能シンプルな材料と構成美しい佇まいという、見事な建物です。こういったサスティナブルな解決法を見い出したり、アイデアを実現するためには、デザイン的な思考が不可欠だとあらためて思った次第であります。

話がズレましたが、無料体験とはいえ、なかなか濃い内容で楽しめました。後日参加した「スターター」コースを鑑みても、実際の授業の雰囲気がつかめる内容になっていると思います。また、いわゆるセールス勧誘的なものはなかったので、気の弱い人でも気軽に参加できるでしょう。
もし興味を持ったなら、自分のレベルを知るという意味でも、まずは無料体験への参加がおすすめです。そして無料体験でやった内容を完全に理解&実践できるレベルの人は、「スターター」を飛ばして「デッサン」「スタンダード」「コンセプト」の個々目的に合うコースを受講しても良さそうに思えました。

スターターコース1回目「思い込みをなくす」

学校側がおすすめしている「スターター」コースを受講。1回目の授業は「線だけでどれだけのことが伝えられるかを知る」「思い込みによる危険性」を学ぶ内容でした。というわけで、授業でやったことの一部を紹介します。

まず、線による表現ではオノマトペの課題が出されました。なかなかユニークな課題です。イメージを線で表現する練習のようですが、単純に描くという行為に慣れていない人にも、良いストレッチになっているのではないでしょうか。ちなみに編集担当に回ってきたお題は下図。どんなお題が出たか分かりますか? これを描いた後、自分の発想力の乏しさに悲しみを覚えました。

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見ての通り、りんごである。しかし表現したかったのは、りんごではない。
オノマトペのツヤツヤである。

一方、思い込みの危険性は、見ているようで、いかに見ていないかを知る、俗に言う観察力の話でした。動物(人間)は目を使って情報を拾いますが、見ていると思っているイメージは、実際には脳で再構築されているという話です。
「何度も見ているのに描けない状態は、漢字が読めても書けない状態と同じ。うろ覚えで、情報が細部までしっかりインプットされていない状態では、漢字も絵も描けない」という先生の説明は、実に分かりやすかったです。醤油薔薇蒟蒻などは、読めても書ける人は多くないでしょう。まして文字よりも絵の方が圧倒的に情報量が多いのですから、難易度は上がります。アートジムでは、形や陰影などの絵の構成要素を「情報領域」という概念で説明していました。
ちなみに、授業では某キャラクターを描く課題にチャレンジ。

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“思い込み”は、形だけでなく色に対しても起きている。
観察力を上げていくことで正確さに近づくという話は、画力以外にも言えることではないだろうか。

おとなの宿題「オノマトペの表現」

1回目の授業の内容を踏まえて出された宿題が、12個のオノマトペをビジュアルで表現するというもの。そして編集担当が提出したものが下図。短時間で描いたとはいえ、ベタ過ぎてつまらない表現になってしまいました。ちなみに、先生に説明を求められたオノマトペは「ガサガサ」「もちもち」
「ガサガサ」は、音の持つイメージをストレートに描いたもの。ガサガサは音を表す言葉で、音が切れているイメージかなと。音が連続していなくてブツブツ切れている感じを表現したつもりです。
「もちもち」は、食感を表す言葉。もちもちしていると表現するものは、パン生地系かなと。なのでパンの気泡を拡大したらこんなイメージかなというものを描いていますが、微塵も似ていません。

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今見返すと、全体的にかなり適当に描いている(反省)。
どんなお題が出されているか、わかるだろうか?
モザイク部分のオノマトペを知りたい人は授業に参加してみよう。

スターターコース2回目「絵は情報」

デッサン用の鉛筆の削り方に始まり、棒人間で動きを表現する練習や、立方体を描く練習、陰影をつける練習など、2回目は「描く」という段階をもう一歩進んだ感じの授業になっていました。
下図はイメージを膨らませて描く課題で描いたもの。鉛筆の使い方を学びながら、夕日が沈むもしくは朝日が昇るベースの絵を描いて、それぞれ自由に要素を描き足していきます。とはいえ、何を描いていいのか分からず、この時はなかなか手が進みませんでした。それで後になって、ふと気付いたことがあります。好き勝手に描けなくなったのは、いつから? 小さい頃は描いてはいけない場所にも落書きをしていたのに、ずいぶんとつまらない大人になってしまったものです。

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左側は海、右側は砂漠という点は共通で、最初にヨットとプラミッドを描き、
あとは海や砂漠から連想されるものを自由に描いてみるという課題であった。
海の方は時間がなかったので、あまりストーリーを考えずに描いてしまった。
何でもいいから思いつく限り描き込むくらいの気持ちで描くべきであった。

さて、2回目の授業では、消失点のない立方体を描き、それに陰影をつける練習をしました。先生が、細かく順を追って説明してくれるので、誰でも問題なく描けると思います。ちなみに、消失点のない立方体、いわゆる製図の立方体の描き方は、中学数学で習っているはずですけどね。。
立方体や円柱や球などの基本形は、単純だからこそ誤魔化しが利かない難しいモチーフです。こういった単純な形こそ、その人の持っている感覚がよく見えてくると某先生から聞いたことがあります。ここから成長していけということでしょうか。なんにせよ、スタート地点がコレだということが可視化されました。あとは伸びしろがあると信じて描き続けるしかないのでしょう。

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消失点のない立方体は「平行投影」、消失点のある立方体は「透視投影」と呼ばれる。
今回練習したのは「平行投影」の立方体。

1+2回の授業を受けてみて、アートジム自体が「伝える」ことを目的としているからか、「絵を情報として捉える」というスタンスでの教え方が印象的でした。学生と社会人の学び方の違いを踏まえた教え方になっているので、初心者が短時間で効率的に学習するのには、学びやすい学校だと思います。とりわけ一度もこういった手を動かす学校に通ったことがない人は、いい刺激になりそうです。
欲を言えば、「情報として捉える」というスタンスに基づいた石膏デッサン立体構成平面構成などが学べるコースがあってもいいのかなと。また、アートディレクションが学べるような中級以上のコースの拡充にも期待したいところです。
ちなみに、参加授業の生徒は全員、仕事を持っている社会人だったので、若い学生に混じって「居づらい」と感じるようなことはなさそうです。