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フジイカクホのアナログ立体イラストの仕事〜魅惑のドールからミニチュアまで〜

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フィギュアとも3DCGとも違う暖かい雰囲気を演出できる素材の立体イラスト。人物から動物、小物、お菓子まで、愛らしいさまざまな粘土作品を作り出すフジイカクホ氏に、立体イラストレーターの仕事の話を伺った。

フジイカクホ
東京工芸大学大学院芸術学研究科修了。フリーランスの立体イラストレーター、絵本作家として活躍中。著書に『えさがしずかん なないろマカロンとさがそう!』(教育画劇刊)がある。2016年10月下旬~11月上旬に個展を開催予定。
Webサイト:http://www.maruisekai.com/
LINEスタンプ:http://store.line.me/stickershop/author/925/ja


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——立体イラストは何で作られているのでしょうか?

僕が使っているのは樹脂粘土です。粘土の他に使う道具は、楊枝綿棒紙ヤスリ木工ボンドなどですね。色はカラー粘土を混ぜて作り出します。絵の具の混色と一緒で、同じ色を作り出すのが結構大変です。それと、樹脂粘土は空気に触れると乾燥して固まっていくので、作業中はサランラップにくるんで粘土を保護しています。

形を作るときは、まず胴体や顔などのパーツごとに作り、そのパーツをつなげて立体を完成させます。パーツを作るときは、カッターで先端を削った楊枝を使って、粘土を削るように成形し、パーツをくっつけるときは、綿棒に水をつけて粘土を伸ばすような感じで、つなぎ目を滑らかにしていきます。全体の形ができたら乾燥させ、最後に表面にヤスリをかけて仕上げるといった感じです。

ちなみに、粘土細工ではホコリが天敵です。作り始める前にホコリ取り用の粘土を握って手に付いたホコリを取り、作品に入り込まないようにしています。特に小さなものはホコリが目立ちやすいので注意しています。

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道具は身の回りにあるものを工夫して使用しているそうだ。
細かい作業を繰り返して地道に形を整えていく。根気のいる作業だ。

——キャラクターを作るときに気をつけているポイントはありますか?

やはりデフォルメの形でしょうか。学生時代の先生のアドバイスが、今でも役立っています。当時、クジラをイメージした立体作品を作ったことがありまして、先生に見せたところ、クジラなら、しっぽのヒレがないとダメだろ、潮吹きがないとダメだろ、デフォルメの仕方が違うだろ、と怒られたことがあります。その時は、あまり理解していなかったのですが、今は、形には削っても大丈夫な要素と、削ってはいけない要素があることがよく分かります。他の人が見たときに、すぐにそれと分かるように、モチーフの特徴的な部分の形は外さないように注意して作っています。

また、表情豊かなものが褒められたり、変化がないものが退屈だと思われたりしたので、そういった点にも気をつけて作るようにしてますね。これも学生時代の話ですが、3人の先生に60点くらいの作品を見ていただいたことがあり、その時に、先生方の気になるポイントと褒められたポイントが一致していて、とても驚いたことがあります。なぜ同じ感想なのかを先生に聞いてみたところ、あるレベルに達すると、好き嫌いの好みは別にして作品の善し悪しが分かるようになる、と教えてくれました。あるレベルを超えると全体を見通せるようになるということは、作品作りには“ラッキー的なアタリ”はあんまりないのかなと思います。

最近は平面のデザイン画をもらって立体化する仕事も増えてまして、立体化の場合は、四方から見て違和感がないくらいまで形ができたら完成かなと思ってます。正面の絵と横向きの絵が用意されている場合は、そのまま立体にすると特に目の位置に矛盾が生じることが多いので、基本は正面のデザインを優先して作るようにしています。

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上の作品はLINEスタンプ用に作られたもの。文字は紙に手書きして取り込んでいるとのこと。
下の作品はLINEスタンプや作品見本用に作られたもの。どれも細部までよく作り込まれている。

——立体イラストを作るようになったきっかけを教えてください。

大学2年生の終わり頃に、課題の中で粘土作品を作ったことがきっかけです。初期の頃は半立体の作品を作っていました。
当時を思い返すと、単純に楽しかったというのもありますが、自分なりの表現みたいなものが欲しかったというフシもありますね。2年生くらいになると、この人はこういう作品を作るよねという、その人なりの方向性が見えてくるのですが、僕にはそれがなく、課題ごとに、画材を変えたり、表現を変えたり、試行錯誤していました。広告デザイン専攻だったので、伝えたいことに合わせて手法を変えるのは良いことだと思いますが、その中でも自分の武器として粘土作品があったらいいかなと思って始めたものです。

粘土作品は、広告研究室にいながら課題外で作っていました。大学4年生の頃には作家で行こうと決めていたので、大学院からイラストレーション専攻に移り、本格的に立体イラストレーションに取り組むことになります。当初は、遊具をイメージしたようなものを作ってましたね。流木に粘土くっつくて何かおもしろい表現ができないかなとか。大学院1年生の頃は、とにかく賞をとりたい気持ちでいっぱいで、他の人とは違う新しいものを、目立つものを作らなければという気持ちで、出落ちというか、ぱっと見のおもしろさというか、この時は表面上のことばかり追っていた気がします

賞がとれずに焦る僕を見て、あるとき先生がアドバイスをくれたんです。『今のおまえの作品は「ザ・チョイス」も「1_WALL(ワン・ウォール)」も通らない。賞をとりたいんだったら表現を変えなきゃいけないけど、自分の表現を変えてまで賞をとった先に、求めているものはあるのか。賞をとっても仕事が来るようになるわけじゃない。賞はいずれ自分に合った賞が見つかるから、その時に無理なく応募すればいい。おまえは、おまえとおまえの作品を必要としてくれる場所に行け』と。

このひと言が転機になりました。自分は何がしたいのか、よくよく考えてみたら、作品を使って仕事にしたい、生活したいんだということに気づいたんです。自分が目指す方向は賞じゃない。仕事として必要とされる方向に進まないと、と思うようになりました。先生のアドバイスは、自分のその後の人生を示唆してくれたと同時に、表現の方向性を変えるきっかけにもなっています。その後、徐々に自分が好きなメルヘンの世界や動物の作品を作るようになっていきました。

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どちらも学生時代に作った作品。この頃はファンタジー系の半立体作品が多かったそうだ。

——フリーランスで仕事をしていくためにやったことを教えてください。

大学4年生のときに、先生から作品販売では生きていけないぞと言われていたので、積極的に営業活動を行っていました。ただ、メルヘンってあんまり仕事にならないんですよね。売り込みしても「いいんだけど、うちで使えるかな」という言う感じで、すごく相手を困らせてしまうことが多かったです。僕としては使えそうなところに持っていってるつもりなんですけど、全く違う反応が返ってくる。

とりあえず100件は営業に行こうって決めていたので、100件以上は行きました。でも純粋に仕事につながったのは2~3件だけ。周りから、売り込みは100件やって2~3件くらいだよと聞いていましたが、やはり僕も成功率は低かったですね。

ただ売り込みに行った先の方から、肌色の普通の人のキャラクターを作った方がいい動物も普通の感じに作った方がいい写真がよくないからプロに撮ってもらった方がいいといった具体的なアドバイスをたくさんいただけました。実際にその通りにしてみたら、本当に仕事が来るようになって、作品の幅も広がっていったんです。直接会って話したおかげで分かったことも多いので、直接的な打率は低かったものの、とてもいい経験ができたなと思っています。

また売り込み先の方からのアドバイスは、自分の考えを改めるきっかけにもなりました。当時は自分なりの表現をしたいという気持ちが強かったんですけど、本当はそうじゃなかった。オーダーされた普通の人や動物を作ってみたら、こっちの方がずっとやりがいがあって楽しくて充実してたんです。こだわりと言うよりも、それを言い訳にして、単に自分を変えたくなかっただけなんだと気づきました。自分なりの表現をしたいと言ったら、それはそれで通る世界でもありますからね。自己表現ではない作品を作ることへの抵抗感がないことに気づいてから、他の人から言われたものにもチャレンジしてみようと、柔軟な考えになりました。

現在は、すでにつながりのある方や、Webサイトや、LINEスタンプの作品を見た方などからお仕事をいただくことが多いですね。以前のような訪問しての営業活動は行っていませんが、商談のための展示イベントだけは毎年出展しています。

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細かいパーツを作って組み立てていく。
クリアファイルを敷いて作業するとホコリがつきにくいとのこと。
ただし円形のものは転がりやすいので注意。

——今後やってみたいことを教えてください。

キャラクターの開発から関われたらと思っています。昔からデフォルメされたキャラクターが大好きで、特にゲームのRPGのモンスターやキャラクターは何度も描いてました。もちろん立体化の仕事も楽しいですし、やりがいもありますが、キャラクターに慣れ親しんできた身としては、イチからキャラクターに関わってみたいです。

キャラクターは育てるものだって常々思ってきたので、ちゃんと生み出して世に出てからもケアできるような環境ができたらいいなって思います。作ったら終わりの世界ではなく、愛されて育てていったキャラクター達が、今残っているキャラクター達だと思うので、そういうことに関われたら嬉しいですね。あと東京オリンピックのキャラクターが公募になったら出そうかなとは思ってます(笑)。