紙と金のジュエリー“ikue”登場
紙と金でつくられたアクセサリー“ikue”が発表されました。この新製品、従来のジュエリーと大きく異なるのは、素材が紙と箔であることです。
商品の開発に当たったのは、株式会社TANTのアートディレクター横山徳さん、プロダクトデザイナー原田元輝さん。製造を担当されたのは有限会社篠原紙工のバインディングディレクター篠原慶丞さん、そのほか同社の協力会社である株式会社美箔ワタナベが箔の加工に携わっています。
“ikue”のブランド名は、紙が“幾重(いくえ)”にも束ねられているところからきています。“ikue”の本体は紙の束(つか)でできており、紙の束の断面には書籍の加工技術である「三方金」が施されています。つまり、“本”のような感覚のジュエリーと言えるでしょうか。
このジュエリー、なによりも美しいのが特徴。手にしてみると紙とは思えないほどの軽さです。さらに紙のジュエリーとして、何度でも繰り返し使える耐久性、耐水性を併せ持ちます。身に纏う人が幸せな気分になれ、見る人を惹きつけてやまないアクセサリー“ikue”の魅力を紹介します。
紙と金の美しさに惹かれる新感覚のジュエリー
紙と金・銀の箔でつくられたアクセサリー“ikue”の発表会場には、2018年5月30日〜6月1日、東京ビッグサイトで催された「インテリア ライフスタイル」が選ばれました。この催しはプロフェッショナルのバイヤーが集う商談見本市で、一般の方は入場できません。会場には年内に発売が予定されている各社の新製品や試作品が並び、商談が交わされます。

“ikue”のブースには2018年7月に発売予定の試作品が一堂に並べられました。ブースを訪れた皆さんは、紙と金からできていることを聞くと驚かれます。展示では、素材に使われた用紙や製本技術の「三方金」の仕組みが並べられ、さらに水分を弾く加工が施されていることが説明されていました。
筆者は普段から書籍の仕事に携わっているので、製本の技術に関してはある程度の知識があるのですが、「ikue」には最先端の製本技術が存分に採用されていることに驚かされます。紙を束ねる糊は、PURという接着力の強い特殊な工業用糊が使われています。「三方金」はヨーロッパで生まれた伝統的な製本技法のひとつで、これまでにも豪華本や手帳などに使われている馴染みのある技術です。
製造を担当された篠原紙工の篠原慶丞さんは「製造の工程は、普段から行っている製本の工程とほぼ同じ流れです」と語ります。一般の方には、製本の工程や技術は馴染みがないかもしれませんが、日本の製本技術は他国とも比べて格段に優れています。
特筆すべきは、紙を素材にして精緻な装飾品に仕上げる高い技術力です。ベースとなっているのは製本技術ですが、それををすごく小さなジュエリーに応用したことに驚かされます。「ikue」は2018年1月にフランス・パリで開催された「MAISON & OBUJET PARIS 2018」に出展し、日本発のアクセサリーとして国外に初めて紹介されました。“ikue”の日本独特の精緻な加工技術にヨーロッパのバイヤー達も驚かれたそうです。
日本でのお披露目が、今回の「インテリア ライフスタイル」展です。では、ブースの様子を紹介しましょう。


“ikue”の商品バリエーション
多彩な“ikue”ブランドのバリエーションを見ていきましょう。ブースの壁面には多彩な試作品が展示され、自分の好みのものを探すことができます。
また、実際に手にとって、重さや感触を確かめることもできました。見た目よりも軽いので皆さん驚かれていました。4〜5g程度なので、身につけても負担にならないことが実感できます。


形(型)は3種類あります。束ねた紙を型抜きして、これを360度一周して広げると、円筒や円錐の形になります。現在は、DIAMOND、STRAIGHT、CONEの3種類のバリエーションがあります。
使用紙は、サガンGA、ジェラードGA、タントが使われています。紙色は商品により構成が異なりますが、DARK、WHITE、GRADATION、SILVERの種類があります。
箔は、金、銀、ホログラムがあります。
型、紙、箔の組み合わせでさまざまな種類があります。紙や箔の種類はさまざまなものがありますし、今後も新しいものが開発されていきますから、バリエーションは無限と言ってもよいでしょう。今後の商品展開が楽しみです。



商品のバリエーションの中に、指輪を見つけました。本の形をした指輪です。断面の金の部分は本の「小口」に相当し、パラパラとページがめくれます。パーティーの賑やかな場では、会話が弾むのではないでしょうか。

商品のパッケージは、左右2つのピアスがセットで収まる紙箱が用意されています。箱の蓋は厚紙が45度にカットされて開閉する精巧な作りで、“ikue”のブランド名と飾り罫が箔押しで印刷されています。


製造工程は製本工程と同じ!?
「ikue」を紹介する12ページの冊子があり、これを見ると製造工程は製本の工程とほぼ同じプロセスで作られていることがわかります。工程は、①紙の選定 ②天金 ③型抜き ④糊付け ⑤組み立て の5つのステップです。
①紙の選定
使用する紙を選び、綴じる順序に束ねます。製本ではこの工程を「帳合(ちょうあい)」と言います。カラーペーパーであれば図のようなグラデーションを表現することもできます。

②天金
書籍の天のみに金を転写する加工を「天金」と呼びます。紙の束(つか)の断面を滑らかに削り平滑にし、金や銀、ホログラムの箔を加熱圧着で紙に転写します。

③型抜き
基本的には通常の製本時の型抜き技術を応用しますが、それを小さなジュエリーで行う際には、より繊細な技術を要します。長年製本のスペシャリストとして質の高い本を世に送り出してきた篠原紙工だからこそ実現できる工程です。
④糊付け
紙の束の一辺を糊で接着します。糊は、PUR製本に用いられるPUR糊が採用されています。PUR糊は従来の糊に比べ、接着力が強く経年劣化も少なく、糊量も少なくて済むので、より柔軟で均一な開きを実現することができます。

⑤組み立て
最後は一つ一つ人の手によって丁寧に、大切に組み立てられます。日本の繊細な感性が注がれ、ジュエリーとしての価値を高めていく工程と言えるでしょう。

ジュエリーとしての紙の強度
“ikue”は、強度に対しても十分に配慮し、仕上げられています。紙のジュエリーとして、紙の強度を保ったまま何度でも使えるような強度を兼ね備えています。衝撃にも水気にも強い紙を実現するために、さまざまな加工が施されています。
紙の束を固める糊は、前述のようにPUR糊が採用されています。PUR糊は工業用途に開発された特殊な糊であるため、接着力が格段に強いのが特長です。経年劣化も少なく、長期保存が可能です。
また、湿気が多い時、汗ばむ気候等、さまざまなケースで防水性が求められます。さまざまな耐水材をテストし、最も撥水、撥油、防水、防湿、防汚に優れ、かつ人体への影響がないフッ素コーティング剤にたどり着き、汗や小雨にもある程度の耐性を持ったジュエリーになっています。
展示ブースでは、紙に水滴を落として、水滴が弾かれる様子を見ることもできました。紙は水に弱いという既成概念が覆されました。


新感覚のジュエリー“ikue”は、さまざまな可能性を感じる魅力に溢れたアクセサリーです。今年の大きなトピックであることは間違いないでしょう。
“ikue”は2018年7月発売予定です。詳細は以下のサイトを参照ください。
【Web・SNS詳細】
ikue:http://www.ikue.work
facebook:https://www.facebook.com/ikue.work/
instagram:https://www.instagram.com/ikue_paperjewelry/
TEXT:ファー・インク 生田信一