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新時代のデジタル印刷がグラフィック表現を変える ~グラフィックデザイナー×Iridesse Production Press~

グラフィックデザインの世界は、常に新しい表現手法、見せ方を模索している。一方、デジタル印刷の世界も進化を続け、今やプロセスカラーの表現を超えた色を再現できる機種も少なくない。しかし、最新のデジタル印刷機をグラフィックデザイナーが知る機会は多くないのが実状だ。では、最新機種を知ると、グラフィックデザイナーはどんな反応を示すだろうか。富士ゼロックスが発売した最新機種「Iridesse Production Press」を題材に、グラフィックデザイナーと富士ゼロックスが、“新しい色、グラフィック体験”について語り合った。

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※この記事は『カラー図解 DTP&印刷スーパーしくみ事典 2018』からの転載です。

新しい印刷の可能性を拓くIridesse Production Press

「いやぁ、すごい時代になってきましたね」と第一声を発したのはグラフィックデザイナーの小瀧 敦氏。日頃からオンデマンド印刷も利用し、デザイン関連書籍や雑誌のデザインも多く手掛ける小瀧氏ですら驚いたのが「Iridesse Production Press」のメタリックカラーだ。

Iridesse Production Pressは、2017年10月に発売されたデジタル印刷機である。ゼログラフィー(乾式電子写真方式)において業界初となる1回で6色をプリントできるという内部機構を搭載し、CMYKに加え2色の特殊トナーをあらかじめセットしておくことが可能となっている。この特殊トナーとして用意されているのが、ゴールド、シルバー、ホワイト、クリアの4色。この内部機構でユニークなところが、最初と最後にあたる2色のトナーをユーザーが自由にセットできることにある。たとえば「ゴールド→K→C→M→Y→クリア」という順番でトナーをセットすれば、先にゴールドで下地を印刷し、その上にカラー印刷して、さらにクリアを重ね刷りしたグラフィックを再現する─というデザインも可能。小瀧氏が語った第一印象の言葉の裏には、Iridesse Production Pressの基本機能に対する驚きがあったというわけだ。

左:グラフィックデザイナー 小瀧 敦氏
中:富士ゼロックス株式会社 グラフィックコミュニケーションサービス事業本部 マーケティング部 嶋田和成氏
右:クリエイター 髙野 洋氏

富士ゼロックス グラフィックコミュニケーションサービス事業本部マーケティング部の嶋田和成氏は、Iridesse Production Pressの開発にあたって、「デジタルだからできること、超えられることに挑戦したい、という思いがあった」という。その思いは、製品発表と同時にメディア関係者に伝わり、「これは何かの後継機じゃない。別次元の商品だね」という声も上がっていたそうだ。

これは印刷物を見れば一目瞭然。具体的には、より小さな粒径として開発したSuper EA Ecoトナーによる薄膜感と透明感が感じられる刷り上がり、低温定着を実現して中間調部分の階調性が上がったこと、薄紙、厚紙にも対応する用紙対応力と、これまでの乾式電子写真方式のデジタル印刷機とはひと味違う仕上がりになっている。

Super EA Ecoトナーによる透明感もあって、パステル調のメタリックカラーも美しく再現される。プロセスカラーによるパステルカラーとは違う高級感が出せるのはIridesse Production Pressならではの仕上がり

ゴールド&シルバーは“色”としての使い方を提案していきたい

Iridesse Production Pressのサンプル作りをする過程で、メタリックカラーの扱い方を多くの事例で検証したのが、クリエイターの髙野 洋氏。富士ゼロックスの他製品のサンプルも数多く手掛ける髙野氏は、小瀧氏と同じ目線でIridesse Production Pressを眺めつつ、開発メンバーとは“デザイナーが求めるメタリック感とは”という話題について、何度もミーティングを重ねたそうだ。

「デザイナーの皆さんが『ゴールドやシルバーが使えます』と言われたら、まずイメージするのは“金や銀の箔”を使った仕上がりですよね。僕も最初はそうでした。でも、Iridesse Production Pressのゴールド、シルバーは箔ではなく“色”なんです。だから、“金・銀の箔”とは仕上がりが違います。そのことに気付いたとき、逆にいろいろな場面でデザインに活かせるのではないかとイメージが膨らんでいきました。たとえば、Iridesse Production Pressでゴールド&シルバーを引き立たせるなら、コントラストが強調できる絵柄に使ったり、マット紙に印刷したほうがキラキラとした“らしさ”が出ます。記憶色にあるメタリックカラーをいかに再現するか、いろいろな側面から考えることが重要です。この、感覚が錯覚をおこすような見せ方を考えることが、メタリック感を印刷物で演出するときのポイントになってきます」(髙野氏)

「僕たちデザイナーは、ふだんCMYKカラーというある種の制約、お約束の中でデザインを考えていて、とくにオンデマンド印刷でスポットカラー的な色が使えるとは想像もしていません。プロセスカラーでゴールドやシルバーっぽく、光沢を付けるような見せ方は知っていても、そのものの色が使えることを知らない人は多いと思うんですよね。でも、Iridesse Production Pressにはゴールド、シルバーがある。特色がすごく身近になって楽しめるっていうのはやっぱり良いですよ。デジタル印刷だとゼロから自分で作れて、しかも仕上がりまで自分の責任で進めることができる。特色の使い方を含めて発想の転換が求められるのでこりゃ大変だ、と思う一方、ものづくりという点では、やっぱりデジタル印刷って楽しい! というワクワク感があります」(小瀧氏)

6色のトナーが並ぶIridesse Production Pressを前に、トナー入れ替えをユーザー自身ができることに驚く小瀧氏。嶋田氏は、「デジタル印刷のイメージを変えたい。新しい表現ができるゴールド、シルバーというトナーを楽しんでほしいんです」と語る

箔ではない色としてのゴールドとシルバー、メタリックカラーの使い方は、デザイナーのアイデアに掛かっているわけだが、髙野氏のお薦めは、色のコミュニケーションツールとしても活用できるところだ。

「たとえば、シルバートナーの上にカラートナーで印刷すると、メタリックカラーに見えます。一方、ゴールドトナーにカラートナーを乗せると“赤金”、“青金”をシミュレートできるので、デザイン発注者とのコミュニケーションにも役立てていただけると思います」(髙野氏)

このコミュニケーションのために、富士ゼロックスはメタリックカラーのスウォッチライブラリーを提供している。これを印刷したものを見ながら、ピンポイントで色のキャッチボールができるのは、デジタル印刷ならではのメリットだ。

ゴールドやシルバーのトナーを使った色を提案するため、髙野氏を中心に作成したのがAdobe Illustratorなどで利用できるメタリックカラーのスウォッチライブラリー。ユーザーが自由にダウンロードできるように公開されている
左:ゴールドトナーの下刷りによって、赤金や青金などさまざまな色合いのゴールドを再現できるライブラリー
右:シルバートナーの下刷りによって、カラフルなメタリックカラーを再現できるライブラリー
箔ではなかなか難しい細線の表現もデジタル印刷ならではの見せ方。さらにマット系の用紙にクリアトナーを印刷することで、ぬれたようなツヤを表現している。用紙の特性とデジタル印刷の繊細な仕上がり、特殊トナーの面白さが一目で分かるサンプルである

対応メディアの豊富さと特殊トナーがクリエイティブな発想を刺激する

もうひとつ、小瀧氏が注目したのは、52g/㎡という薄さの用紙も印刷速度を落とすことなく印刷できるという点だ。

「デザイナーにとっては、用紙選びも大切な仕事のひとつです。印刷できる用紙は多ければ多いほど良いですよね。でもオンデマンド印刷には使える用紙や紙の厚さに制限があった時期も長かったので、僕自身、オンデマンド印刷=使える用紙が少ないという固定観念がありました。今回Iridesse Production Pressを見て、印刷できる用紙種類の豊富さにも驚いています。たとえば、薄い紙だったらオリジナルの包装紙を作るとか、厚い紙だったらカード印刷とか、紙の特徴から具体的な作りたい物のイメージが湧いてきます」(小瀧氏)

「Iridesse Production Pressが実現できるのは、まさに今までデジタル印刷だからできない、だめだろうと諦めていた部分です。ゴールドやシルバーというトナーは、普段なかなかお仕事に利用する機会は少ないかもしれません。でも、体験していただくと、デジタル印刷でここまでできる、という新しい感覚を持っていただけると思います。販促物や広告など、プロセスカラーに少し他とは違うキャッチーなエッセンスを加えたいときに、ゴールドやシルバーを使ってみたらどうだろう、と思っていただけたらありがたいですね」(嶋田氏)

「もちろん印刷物を作る上では、伝えたい主役があるので、これを目立たせるのがいちばんです。でもこのとき光が当たったり見る角度を変えると『あれ? 普通のカラー印刷と違うね』と感じさせることができるのが特殊トナーの面白いところ。それは、結果的に印刷物の価値を高めることに繋がっていくと思います」(髙野氏)

「最初は言われないと気付かない違いかもしれませんが、特色を使えば誰が見ても何か違うなと感じられると思うんです。僕はこの違和感、気付きがたとえ小さくてもうまく使うのがプロのデザイナーとしての仕事だと思います。髙野さんのお話を聞く限り、メタリックカラーの表現はかなり深くて沼にはまるような感覚らしいですが(笑)、それもまた楽しみ。主役をより引き立たせる特殊トナーの使い方をこれから考えていきたいですね」(小瀧氏)

Iridesse Production Pressが実現する特殊トナーの世界を知る前と後では、「作る物のデザインや提案そのものが変わりそう」という小瀧氏。デジタル印刷機の進化に合わせ、デザイナーも情報のアップデートと発想の転換は待ったなしの状態に来ていると言えそうだ。

髙野氏を中心に富士ゼロックスが作成した印刷サンプルを前に「僕はオフセット印刷とデジタル印刷、できることとできないことの壁があったほうが面白いと思ってます。このサンプルからは両者がクロスする部分と逆に広がる部分が見えてきて、いろいろな物が作りたくなりますね」と小瀧氏

提供:
富士ゼロックス株式会社
http://www.fujixerox.co.jp/