しくみ事典アーカイブ連載

【しくみ事典アーカイブ】印刷用紙の基礎知識

※この記事は『カラー図解 DTP&印刷スーパーしくみ事典 2017』からの転載です。

OVERVIEW
紙はパルプに紙質を向上させる填料(てんりょう)を加えて製造され、抄紙された紙は繊維の絡み合わせでできている。それらのうち、表面に何も塗っていない状態の紙は非塗工紙と呼ばれる。これに対し、白色顔料などの薬剤をデンプンやラテックスなどの糊材で塗布したものが塗工紙である。塗工紙は、薬剤の塗工量によって、アート紙コート紙微塗工紙などに分類される。またボール紙や段ボール紙のような積層紙は、板紙(いたがみ)と呼ばれる。紙は原紙寸法が決まっているので、取り都合のいい紙の選び方を知っておく必要がある。

▪ 非塗工紙と塗工紙

下図は非塗工紙と塗工紙の違いを顕微鏡写真で紹介したもの。
下段の塗工紙は、塗布された薬剤の種類や表面の磨き具合などで光沢が変わる。グロス系用紙は表面が平滑で、光の規則的な反射が光の強さに比例する。一方マット系用紙は平滑度が低く、光が乱反射し、光沢は抑え気味に見える。
グロス系のアート紙は、白色度も高いため目が疲れやすく文字も読みにくい。
これを避けるため、印刷光沢はグロス調で用紙の光沢感はマット調に抑えられたダル系の用紙が選択されるケースが増えている。ビジュアルを含む書籍で微塗工紙が好まれているのも、そうした理由からだ。

非塗工紙
断面を見てわかるように、繊維の絡み合いだけで成り立っており平滑性が低いため、塗工紙と比べてカラー印刷には適さない。白紙面の光沢がないので目が疲れず、書籍などの文字印刷に適している

塗工紙
断面写真では原紙の上に塗工層が見られる。表面に塗工層があるため、平滑で白色度も高い。塗工層表面に微細な凹凸を作ることによって、白紙面の光沢の少ないダル系やマット系の用紙となる

▪ 表面形状と印刷面の光沢

光沢と色の見え方
表面が粗く、光の乱反射が多いほど、見る色に乱反射した白色光が混ざり、彩度は落ちてくる

表面の粗さの違い
アート紙の白紙表面を触針計でなぞったもの。同じアート紙でも、グロス系の用紙に比べ、ダル系やマット系の用紙は表面が粗い

グロス系アート紙
グロス系のアート紙は、表面が平滑なため、白紙光沢が強い。カラー印刷面の彩度や光沢度も高くなる

マット系アート紙
表面に凹凸のついたマット系のアート紙は白紙部、印刷面ともに光沢が抑えられ、彩度は落ちるが、シックな雰囲気となる。なお、ダル系の用紙はインキの乗った部分のみ乱反射を防止して強い光沢が出るように加工されており、白紙面はマット系の用紙と同じく光沢が抑えられている

▪ 紙の目の発生と湿度による変化

紙製造工程で繊維の向きは抄紙方向に並び、紙に目を発生させる要因となる。紙の目の方向は、用紙の湿度変化の際にも影響を及ぼす。
繊維で作られている紙は湿度の影響を受けやすいため、管理を行う環境には注意が必要だ。繊維は抄紙の繊維の流れの方向により、直径方向に伸縮率が大きく、吸湿または乾燥すると、繊維が長辺に沿っている縦目の紙は短辺方向に、横目の紙は長辺方向に伸縮する。

抄紙工程における繊維の流れに合わせて「目」と呼ばれる方向性が紙に生まれる。ロール紙の状態から必要なサイズの枚葉紙に裁断する際に、どのような方向にカットするかによって、縦目と横目の違いが発生する

積まれている用紙や本などは、環境の湿度変化で周辺部分だけが伸縮し、内部は影響を受けにくい。そのため、周辺部分だけが伸びたり縮んだりする紙くせを起こす。乾燥によって周辺部分だけが縮んだ状態は「オチョコ」、吸湿によって周辺部分だけが伸びた状態は「波打ち」と呼ばれる

▪ 紙の規格と寸法

印刷物の設計を行う際に大切なのが仕上げ寸法である。JISで決められている紙加工仕上げ寸法にはA列とB列があり、それぞれ後ろに続く番号がひとつ増加するごとに、半分に折って断裁した寸法となる。このとき、縦と横の比率は変わらず、1:√2(約1.4)の関係となるのも特徴だ。なお、紙加工仕上げ寸法は、原紙寸法をもとに考慮されており、1枚の用紙から効率よく多くのページを取れるように設定されている。

A0=1.0m2=841×1,189mm
B0=1.5m2=1,030×1,456mm

紙加工仕上げ寸法の規格の概念

A列0番とB列0番がサイズの原点で、A列は国際規格と同一であるが、B列は日本独自の規格である。半分になるにしたがい、1、2、3番となる。規格表では「番」を使い、紙製品になると「判」を使うが、意味は同じである

● 原紙寸法の規格

印刷や製本に必要な余白のため、原紙寸法は紙加工仕上げ寸法よりわずかに大きい。A列系とB列系があり、半分に切っていくに従い、半裁、4裁、8裁と呼び、仕上げ寸法とは呼称が異なる

● 仕上げ寸法と原紙寸法の関係

仕上げ寸法と原紙寸法の対照表。サイズがほぼ同じで呼び名が違うため、一覧とした。たとえば、仕上げ寸法A1判(番)より原紙寸法A全判が、さらに菊全判が少しずつ大きくなっていることを表している


INFORMATION
しくみ事典アーカイブは、書籍『カラー図解 DTP&印刷スーパーしくみ事典 2017』から一部の記事を転載して掲載しています。

『カラー図解 DTP&印刷スーパーしくみ事典 2017』
定価 4,104円(税込)
ISBN 978-4-86246-366-1
発行・発売 ボーンデジタル
DTP&印刷スーパーしくみ事典は、DTPや印刷業務に携わるすべての人に役立つ図解事典です。 巻頭特集では「最新トピック100」と題して、「付加価値を創出する最新事例」、「Adobe CC最新動向」、「デジタル印刷最新動向」といった幅広い分野を網羅する業界最新トレンドを多数ご紹介します。